黄金のハンサ鳥(ジャータカ 第136話)
むかしむかしのおはなしです。
あるところに、大きくて美しいハンサ鳥がおりました。
ハンサ鳥とは神さまのお使いと言われている鳥です。
しかも、そのハンサ鳥の羽は、なんと黄金でした。
この黄金のハンサ鳥には特別な能力がありました。自分の前世を見通す力があったのです。
黄金のハンサ鳥は、その力を使って、自分が前の生でどのようにくらしていたのかを見てみました。すると、自分が人間だったことがわかりました。人間だった時の家族のこともわかりました。
「あの家族は今、どうしているだろうか。元気だろうか。私がいなくなって、どうやってくらしているだろうか。」
そう考えて、黄金のハンサ鳥はもと住んでいた村に行ってみました。
村では、自分が人間として生きていたときの奥さんと三人の娘がくらしていました。
しかし、彼女らはとてもまずしいくらしをしていました。大黒柱のお父さんが亡くなり、家はすっかりおちぶれました。三人の娘たちはそれぞれ、よその家にやとわれて小間使いのようなことをして、ようやっとくらしを立てていました。
それを見て、黄金のハンサ鳥は彼女らをかわいそうに思いました。
そして考えました。
「私の羽は黄金だ。この羽は一本ずつ分けることができる。この羽をあげれば、妻と娘たちは楽にくらしていけるだろう。」
彼は飛んで行って、もとの家のはりのはしっこにとまりました。
娘の一人がハンサ鳥を見つけました。
「まあ、なんて美しい鳥でしょう。」
他のふたりの娘もやってきました。
「あらまあ、神さまのおつかいがやってきたわ。どうぞこちらへおいでください。」
「黄金の鳥さん、こっちへおいで。」
と、やさしくよびかけました。
黄金のハンサ鳥は、三人の娘のところに舞い降りて来ました。
娘たちは大喜びで、話しかけたり、そっと羽をなでたり、どうやって鳥にやさしくしようかといっしょうけんめいでした。
妻もやって来て、四人は黄金のハンサ鳥を囲んで、口々に話しかけました。
娘の一人が
「あなたさまはどちらから来たのですか?」
と声をかけました。
すると、黄金のハンサ鳥が人間のことばで話しました。
「私は、おまえたちの死んだ父親の生まれ変わりなのだよ。ここで死んで、ハンサ鳥に生まれたのだ。」
「お父さん! お父さんなの? 私たちに会いに来てくれたの?」
娘たちはとても喜びました。
「おまえたちが苦しい生活をしているのを見たのだよ。
私はおまえたちに、この羽を一枚あげよう。これは、きっと高く売れるだろう。これを売って、楽にくらしなさい。」
黄金のハンサ鳥はそう話すと、羽を一枚抜いて、彼女らに渡しました。
四人はその羽を大切にあつかって、街へ持って行って売りました。
羽はとてもよい値段で売れました。
妻と娘たちは、久しぶりにおいしいごちそうをおなかいっぱい食べて、新しい服も買うことができました。
「お父さんのおかげだわ。」
と四人は喜びました。
それからも、時々、黄金のハンサ鳥はやって来ました。
そして毎回、羽を一枚抜いて、彼女らにあげました。
羽はいつも高い値段で売れましたから、妻と娘たちはだんだん豊かになりました。
生活は楽なりました。
そんなある日、母親は娘たちにこう言いました。
「お父さんが羽をくれるのはいいんだけど、なんでいつも、一枚ずつなのかねぇ。もっとたくさんくれたら、私たちはもっと金持ちになれるのにねえ。」
娘はびっくりしました。
「お母さん、もうじゅうぶんです。私たちは家族そろって楽にくらしています。もうじゅうぶん幸せです。これ以上はいらないわ。」
「なにを言ってるの。お金はいくらあってもいいでしょう。たくさんあるにこしたことはありませんよ。たくさん羽があるんだから、たくさんもらっちゃえばいいのよ。取れるものは取っておかないと。」
娘たちは真っ青になりました。
「そんなことしたら、お父さんがきっと痛いわ。いけないわ。」
母親は娘の言うことは聞きません。
「そんなこと言っても、鳥のことだから、気が変わって、いつここに来なくなっちゃうか、わかったもんじゃないよ。そうなったら、たくさんある羽をもらわないままになってしまうでしょ。どうせもらうものなんだから、先に、一度にもらっちゃえばいいのよ。」
「そんなの悲しいわ。お父さんが渡してくれるものでじゅうぶんよ。お父さんが悲しむことはしちゃいけないわ。」
「羽をいただくだけよ。殺しはしないわ。そこにあるものを手に入れて何が悪いの? あの羽が全部あれば、私たちは大金持ちになれるのよ。」
母親は娘たちが必死で止めても、耳をかしませんでした。
そして、次に黄金のハンサ鳥が来たとき、彼女はいきなり彼をつかまえて、すべての羽を引き抜いてしまいました。
黄金のハンサ鳥の羽は、彼の意志ではなく、暴力によって引き抜かれました。
黄金に輝いていた羽は、ぜんぶ、まっ白なふつうのガチョウの羽になってしまいました。
羽のなくなったハンサ鳥は飛ぶことができません。痛みをこらえてぐったりしています。
母親は舌打ちしながら、彼をかごに閉じ込めてエサを入れておきました。
次に羽がはえてくるのを待っていたのです。
しばらくして、ハンサ鳥に新しい羽ががはえてきました。
しかし、それはまっ白いものでした。
娘たちは泣きながら、ハンサ鳥をかごから出しました。
ハンサ鳥は舞い上がり、飛んで自分の住まいに帰りました。
それから二度と彼女らの家に戻ってくることはありませんでした。
母親は、欲深のせいで、自分の黄金まで失なってしまうことになりました。
また、彼女のせいで、娘たちも得られないことになりました。
お釈迦様の教え
たくさんのものが手に入る時があります。
その時、自分にとってちょうどよい分量について、わかっているようにしましょう。
ちょっとしか手に入はいらない時があります。
その時、自分が手にしたそのままに、得ることができたそれだけで、満足の心を作りましょう。
それ以上のものは望むべきではありません。
得られたもので満足すべき。
欲ばりは悪いこと。
黄金のハンサをつかまえても、
黄金はあなたから逃げていく。
(おしまい)
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