寺子屋スジャータ

陰口はなかたがいさせる言葉(ジャータカ 第349話)

再話:藤本 竜子
絵 :ただ りょうこ

2021/7/13開催 第12回オンラインこども仏教教室より

むかしむかしのおはなしです。
バーラーナシーでは、ブラフマダッタおうくにおさめていました。

陰口はなかたがいさせる言葉(ジャータカ 第349話)

みやこからすこしはなれたあるむらでは、たくさんのうしたちがわれていました。
うしたちは、あさにはもりちかくのくさがたくさんえているところへれてってもらい、ゆうがたにはいえもどることになっていました。

ある、いつものようにうしたちはにっちゅう、ゆっくりとくさべて、ゆうがたになってむらへとかえりました。うしあつめてれていくのはうしいのごとです。そのわかうしいは、ゆうがたうしあつめてれてかえときに、うっかり、いっとうわすれてってしまいました。
のこされてしまったのは、めうしで、おなかにあかちゃんがいるめうしでした。
よるになってしまいました。めうしくらもりのそばで、とてもこころぼそくなりながら、じっとしているしかありませんでした。

陰口はなかたがいさせる言葉(ジャータカ 第349話)
そこへ、もりからライオンがやってきました。ライオンはエサをさがしていました。そして、はぐれためうしつけました。ライオンにとってはぜっこうものです。やぶにひそんで、とびかかるタイミングをはからっていました。

陰口はなかたがいさせる言葉(ジャータカ 第349話)
じっとていると、ライオンにはそのうしがメスで、おなかにあかちゃんがいることがわかりました。ライオンのこころに、へんまれました。そのライオンもメスで、おなかにあかちゃんがいたのです。めうしがおなかのあかちゃんをづかいながら、あんおもっているちが、ライオンのこころなかつたわってきました。

陰口はなかたがいさせる言葉(ジャータカ 第349話)
ライオンはしずかにめうしちかづいてって、「こわがらないで。」とはなしかけました。めうしはびっくりしましたが、なぜかそのライオンのことはこわいとおもいませんでした。
ふたりはすぐになかくなりました。それからはふたりでいっしょに、もりなからしました。

陰口はなかたがいさせる言葉(ジャータカ 第349話)

しばらくたって、めうしうしを、そしてメスライオンはライオンのどもをそれぞれみました。どちらもおとこでした。どもたちはまれたときからいっしょにそだち、きょうだいのようになかよくおおきくなりました。

陰口はなかたがいさせる言葉(ジャータカ 第349話)

さて、ひとりのおとこがそのもりにやってきました。おとこおうさまらいで、あちこちのもりはやしって、おうさまぶんきしたものごとをほうこくするのがごとでした。りょうとしてものおうさまけんじょうすることもありましたし、たとえばめずらしいキノコなど、もりつけたいろいろなものを、おうさまのところへかえっておせしたりもしました。
そのもりなかであちこちとあるまわるうちに、このおとこはライオンとうしがなかよくしているのをました。
ふつうであれば、ライオンとうしはいっしょにいるはずはありません。ライオンはうしをえものとしてころしてべるでしょうし、うしいのちけんかんじてほんになれば、ライオンをったり、つのでついてまもるでしょう。ライオンでもられればんでしまうかもしれません。ったりられたり、たたかうあいだがらでしょう。ですから、このこうけいて、とてもめずしいことだとおどろきました。

陰口はなかたがいさせる言葉(ジャータカ 第349話)

このもりあるきのおとこつぎみやこったときのことです。おとこおうさまにおいし、もりつけためずらしいものなどをおうさまけんじょうし、もりはやしのようすをほうこくしました。
そのとき、おうさまに「もりではなにかかわったことがあったかね?」とたずねられると、あのライオンとうしのことをおもしました。それで、おうさまにそのはなしをしたのです。
おうさまじつもりで、おもしろいものをました。ライオンとうしがなかよくいっしょにらしているのです。わたしはこのたのです。」

陰口はなかたがいさせる言葉(ジャータカ 第349話)
それをいたおうさまは、
「ほほう。それはめずらしい。そんなことがあるのじゃな。」といました。
およそなかよくなるはずのないものどうが、ゆうじょうむすばれていることに、おうさまはとてもきょうがわきました。
そのライオンとうしはこれからもずっとなかよくらすのだろうか。いつまでなかよしでいられるだろう。おうさまかんがえました。
おうさまはとてもかしこかたでした。それで、そのもりあるきのおとこに、こういました。
「そのとうはなかよくらしているということだが、さんびきのものがあらわれると、わざわいがきるにちがいない。」
「わざわいですか?」ともりあるきのおとこはたずねました。おうさまのおっしゃるがよくわからなかったのです。
「そうだ。わざわいだ。こうなことになるだろう。」
そして、おうさまはこうつづけました。
「おまえ、そのとうのところにさんびきがあらわれるのをたら、わたしおしえてくれないか。」
もりあるきのおとこは、「ははあ、かしこまりました。おうさまちゅうしておきます。」
って、おうさまのもとをりました。

ちょうど、このおとこみやこっているあいだに、いっぴきのジャッカルがライオンのところへやってきました。ジャッカルはライオンにとりいって、ぶんになろうとしていました。ライオンはつよいので、ライオンのそばにいれば、らくにくべられるのです。ジャッカルはぶんりをするよりも、ライオンにくっついているほうがいいとかんがえたのです。

陰口はなかたがいさせる言葉(ジャータカ 第349話)
そこで、ジャッカルはライオンにゴマをすったり、おべんちゃらをったりして、ライオンのごきげんをとり、ライオンににいられるように、あれやこれやとライオンのおをしたりしていました。
もりにもどったあのおとこは、ジャッカルをて、「これはおうさまにおはなししなければ。」と、すぐさまおうさまのところへほうこくきました。

おうさまおうさま、あのとうのところに、さんびきがあらわれました。」
おとこがそうげると、おうさまはたずねました。
「そうか。それはなにか?」
「ジャッカルでございます。おうさま。」
「そうか、とうにとってはわざわいがきるであろうな。わたしはそのもりって、とうけつまつとどけようとおもう。おまえ、あんないしなさい。」
そうって、おうさまもりあるきのおとこあんないさせて、あのもりへとかけました。

いっ方、ジャッカルは、ライオンがうしとなかよくしているのをおもしろくないとおもっていました。
「なんだって、うしなんかとなかよくしているんだ。にいらんな。うしもじゃまだが、うしなんかにしんせつにするライオンにもはらつ。」
そうしてイライラしているうちに、こうかんがえました。
「ふん、おれさまはこれまでにいろんなにくべたことがあるが、そういえば、ライオンのにくうしにくだけはべたことがないな。
あいつらのなかいて、ケンカさせれば、おれさまはやつらのにくえるぞ。」

そこでジャッカルはライオンのところへき、こういました。
「ライオンさま、ライオンさま、あなたさまとなかのいいあのうしですがね、こんなことをっているのをごぞんじでしょうか。」
「いったいなにをっているというんだ?」
「あのうしは、あなたさまのことを『いつもまみれのにくばんなヤツだ』とっていましたよ。」
「まあ、あいつはくさしかべないヤツだからな。ばんえるかな。」
ライオンがのってこないので、ジャッカルはさらにこういました。
「ライオンさま、あのうしはあなたのおかあさまのことも『まみれでばんだ』とっていましたよ。」
それをくと、ライオンははらってきました。
「なにをうのだ。オレのかあさんをぶじょくするのか! りをするのはおれたちライオンのごとだ。あいつのことはらないでいてやっているのに、なんでそんなことをわれなきゃいけないのだ。ぶんはグズで、ねんじゅうくさをもぐもぐかんでいるくせに。」
ほんとうにそうおもいますよ。あなたさまがかっこよくりをするのをわかってないやつですねえ。」
とジャッカルはあいづちをうちました。
「まったくだ。からだばかりでかくて、のろまのくせに。」とライオンはしたちしました。
「そのとおりですよ。」とジャッカルはって、ライオンのところをはなれました。

さて、ジャッカルは、こんうしのところにきました。
「ねえ、うしさんよ。あんたはっているかい?ライオンがあんたのことをどうっているか。」
「ん? ライオンがなんだって?」
「ライオンはね、あんたのことを『グズでのろまで、いつもくさをくちゃくちゃかんでいるやつだ』ってっていたよ。」
「ふーん。まあ、オレはいつもくさをかんでいるからね。」とうしいました。
ジャッカルはさらにいました。
「ついでに、あんたのははおやのことも、『ずうたいばかりでかいのうなし』ってっていたよ。」
「なんだって?」うしはびっくりしました。
「オレのかあさんはのうなしなんかじゃないぞ。」
ジャッカルはつづけていました。
「ぼくはライオンがそうっているのをいたんだ。あんた、そんなことわれてはらたないのかい?」
「いや、いくらなんでもそりゃあひどいだろ。」とうしつのをふりげました。
「だよね。そんなしつれいなことうなんてねえ。」とジャッカルはいました。

陰口はなかたがいさせる言葉(ジャータカ 第349話)

おうさまもりとうちゃくしたとき、ちょうどライオンとうしかいっているところでした。どちらもにしていかりにえています。じりじりとにらみあっていましたが、ライオンがうしにとびかかり、うしつのをつきてました。
陰口はなかたがいさせる言葉(ジャータカ 第349話)
たたかったすえ、とうとう、ライオンとうしとうともいのちとしてしまいました。ジャッカルはおおよろこびで、ライオンのにくうしにくりょうほうべたのです。

陰口はなかたがいさせる言葉(ジャータカ 第349話)

おうさまはそのようすをくるまうえって、すべてていました。
それから、おとものぎょしゃにこうはなしました。

「ジャッカルのことは、おそろしきけん、なかたがいさせることなのだ。
ごうこわことだよ。

ジャッカルのずるがしこさをてごらん。ちょっとしたかげぐちで、つよいライオンとつようしりょうほうともをころしてしまった。

かげぐちはなかたがいさせることなのだ。
まるで、するどものにくりつけるように、
ながあいだしんらいかんけいをもいてしまうのだ。

なかよきものたちのあいだはかれ、ゆうじょうやぶられた。
かげぐちにのせられてしまったら、こうちのめされるしかないのだ。
あの、ライオンとうしたちのように。

そうならないためには、ほんとうをつけていなくてはならないよ。
かげぐちにのってはいけない。
かげぐちにのらないならば、てんかいにいるかのように、あんらくしあわせにいられるのだ。」

かしこおうさまは、そうかたってから、ライオンのたてがみやかわきばつめたせて、みやこかえってきました。
かしこおうさまは、ぜんのおしゃさまだったそうです。

 

おはなしのポイント

  • かげぐちは、おそろしいことです。なかたがいさせるのです。
    ゆうじょうこわします。ひとびとへいこわし、こうをもたらします。
  • なかたがいさせることは、ぶっきょうでは「けん」といます。
  • かげぐちったり、わるぐちったり、うわさばなしをしたりすると、いたひとは、そのはなしわれているひとのことを、わるひとだと思います。
    そううイメージをってしまいます。
    そうすると、いたひとは、そのはなしひととなかよくすることができなくなってしまいます。
  • そうやってひとひとあいだこうは、とてもわるいことです。おおきなつみになるこうです。
  • かげぐちわるぐち、うわさばなしはどれも、とてもわるこうです。
  • なかたがいさせることは、わざとなかたがいさせてやろうとしてあいもあるし、
    あまりかんがえずに、ぶんがただいたくてだれかのわるぐちったり、グチをったりすることが、なかたがいのげんいんになるあいもあります。
    どちらでも、ひとびとごうこわすことになりますから、とてもわるいことです。
  • ぶんこうにならないために、そして、にんこうにしないために、かげぐちわるぐちわないように、よくをつけていましょう。
  • わたしたちのまわりには、けん・なかたがいさせることかげぐちわるぐち・うわさばなしひとがいるかもしれません。
    わたしたちはこうにならないために、そのことにのらないでいることがたいせつです。
    わたしたちのこころよわいと、すぐにのってしまいます。でも、のったらこうになりますから、よくよくをつけていましょう。
  • かげぐちわるぐち、うわさばなしいてしまったときには、それをうのみにしてのってしまうのではなく、それがじつかどうかをたしかめることがひつようです。しんらいできるしょうなどがあり、じつであることをかくにんできるまでは、いたないようについてはりゅうじょうたいにしておくべきです。
  • もしもだれかのこうちがっている、「これはよくない」とおもったときには、そのことをかげべつひとうのではなく、うのであれば、やっているほんにんうのがいやりかたです。あるいは、ほかひとびとほんにんもいるうのがいでしょう。ないようじつかどうかはそのでわかりますし、かいみにくいからです。

(おしまい)

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