寺子屋スジャータ

昔々むかしむかし、ある森もりに、シカがくらしていました。
その森もりにはきれいな池いけがあって、そこにはカメが住すんでいました。
池いけのそばの大おおきな木きには、キツツキが巣すをつくっていました。
シカは毎日まいにち、池いけに水みずを飲のみに行いき、 そこでカメとキツツキに出会であって、友ともだちになりました。
シカとキツツキとカメは、毎日まいにち会あって、長ながい時間じかんいろんな話はなしをしました。とてもなかよく、楽たのしく暮くらしていました。

ある日ひ 、一人ひとりの猟師りょうしが森もりの中なかをあちこち歩あるき回まわるうち、あの池いけを見みつけました。
池いけのほとりを歩あるいていた猟師りょうしは、地面じめんについたシカの足跡あしあとを見みつけました。
「これはなかなか立派りっぱなシカではないか。こいつをしとめてやるとしよう。
きっと、この池いけに水みずを飲のみに来くるに違ちがいない。では、このあたりに罠わなを仕掛しかけておこう。」
そう言いって、鉄てつの鎖くさりぐらい丈夫じょうぶな革かわひもでできた罠わなを仕掛しかけて帰かえって行いきました。

夕方ゆうがた遅おそく、シカが池いけにやってきました。
「早はやく友ともだちに会あいたいな。」と思おもいながら、ぴょんぴょんと跳とびはねながら走はしってきました。

池いけがすぐそこに見みえてきた時とき、いきなり足あしが何なにかにつかまれました。
シカはびっくりして、思おもわず悲鳴ひめいをあげました。
その声こえを聞きいて、池いけからはカメが、木きの上うえからはキツツキが、あわてて見みに来きました。 見みると、シカの足あしが罠わなにかかっています。かたい革かわひもの罠わながシカの足あしをがっしりととらえています。
逃にげようとしてひっぱると、足あしがちぎれそうに痛いたくなりました。
猟師りょうしが来きたら、きっとシカは殺ころされてしまうでしょう。
「どうすればいいんだろう？」
シカとカメとキツツキはお互たがいに目めを見合みあわせました。

キツツキが罠わなをよく観察かんさつして言いました。
「これは、この革かわひもを切きるしかなさそうだよ。とてもかたそうだけど。
カメくん。きみには歯はがあるよね。きみなら、この革かわひもを噛かみ切きれるかも。
きみが噛かみ切きっているあいだ、ぼくは飛とんで行いって、猟師りょうしを見張みはっているよ。そして、猟師りょうしがここへやって来こないように、がんばってみる。」
カメがすぐに言いいました。
「よし、そうしよう。」
カメとキツツキは 「力ちからを合あわせて乗のり越こえよう。」
とシカを励はげますと、すぐに仕事しごとを開始かいししました。
カメはすぐさま革かわひもを噛かみ始はじめました。
キツツキは猟師りょうしが住すんでいる村むらへ飛とんで行いきました。

よく朝あさ早はやく、あの猟師りょうしが斧おのを持もって、家いえから出できました。仕掛しかけた罠わなを見みに行いくつもりです。
すぐさまキツツキは恐おそろしい声こえをあげながら、空そらから猟師りょうしをめがけて急降下きゅうこうかして、顔かおに体当たいあたりして飛とび去さりました。
猟師りょうしは、家いえから出でようとした瞬間しゅんかんにわけもわからないことが起おこり、
「なんなんだ？今日きょうは縁起えんぎが悪わるいぞ。」といったん家いえの中なかに戻もどりました。
キツツキは、考かんがえました。
「猟師りょうしはさっき家いえの表おもてから出でてきたな。次つぎはきっと裏口うらぐちから出でてくるだろう。」
それで、今度こんどは家いえの裏うらにひそんで待まちました。

猟師りょうしは、しばらく家いえの中なかで休やすんでいましたが、気きをとりなおして、こう考かんがえました。
「さっきは家いえから出でたとたん、不吉ふきつな鳥とりにやられてしまった。今度こんどは裏うらから出でれば大丈夫だいじょうぶだろう。」
そこで、裏口うらぐちからそっと、あたりをうかがいながら出でてきました。
一歩いっぽ外そとに出でたとたん、キツツキは恐おそろしい声こえをあげながら、猟師りょうしの頭あたまに後うしろから 体当たいあたりして飛とび去さりました。
猟師りょうしは恐おそろしくなって、あわてて家いえの中なかに引ひき返かえし、
「ああ、今日きょうはツイてないや。」
と、ふとんをかぶって、もう一度いちど眠ねむってしまいました。

猟師りょうしが再ふたたび目めをさますと、もう日ひが高たかくのぼっていました。
猟師りょうしは飛とび起おきて、斧おのをしっかりとにぎりしめました。
「もう行いかねばならん。今度こんどこそ、行いってやるぞ。あの不吉ふきつな鳥とりがおそってきたら、この斧おのでたたき切きってやる。」
猟師りょうしは今度こんどは、斧おのを振ふり回まわしながら、家いえから出でてきました。
キツツキには、もうこれ以上いじょう、猟師りょうしを足止あしどめさせておくことができないことがわかりました。
そこで大急おおいそぎで、森もりの中なかの池いけに向むかって飛とんで行いき、シカとカメのところへ舞まい降おりました。
カメはわずかな革かわひもを残のこして、あとは全部ぜんぶ噛かみ切きってしまっていました。
でも、カメの歯ははボロボロになっていて、口くちは血ちまみれになっていました。
「猟師りょうしがやって来くるよ！」
とキツツキが叫さけび、カメは最後さいごのがんばりで革かわひもを噛かみました。
シカも足あしに力ちからを入いれて引ひっ張ぱりました。とうとう革かわひもが切きれました。
その時ときにはもう、猟師りょうしが大おおまたでズンズン近ちかづいてくる姿すがたが見みえました。
シカはさっと身みをひるがえして森もりの中なかへかけて行いきました。
キツツキは高たかい木きにとまって身みをかくしました。
カメは動うごく力ちからがなくて、その場ばにじっとうずくまりました。
罠わながこわされて、シカが逃にげてしまったとわかると、猟師りょうしはかんかんに怒おこりました。
足踏あしぶみをしてくやしがりました。
そこで、その場ばにいたカメを見みつけると、えものを入いれる袋ふくろにほおりこんで、木きにぶらさげてしまいました。
そして、シカをさがしてあたりを歩あるき始はじめました。

シカはそっと戻もどってきていました。カメとキツツキのことが心配しんぱいだったからです。
しげみのかげから見みて、カメがつかまって袋ふくろに入いれられたのがシカにわかりました。
「カメくんを助たすけなきゃ！」

シカは、猟師りょうしに見みえるところに姿すがたを少すこしあらわして、足あしを引ひきずって歩あるきました。
猟師りょうしはそれを見みて、シカがケガをしていると思おもいこみました。
「しめしめ、こいつは弱よわっているな。これなら簡単かんたんにしとめられるぞ。」
そう思おもって、斧おのをにぎって、シカを追おいかけました。
シカはつかまりそうなぐらいに引ひき寄よせては離はなれ、また引ひき寄よせては、また少すこし離はなれ、というようにして、森もりの中なか深ふかく猟師りょうしをさそいこみました。
かなり遠とおくまできたところで、シカは、さっとひとっとびで姿すがたをくらまし、風かぜのようにまっしぐらに跳かとんで走はしって、池いけのところに戻もどりました。

キツツキはカメが入いれられている袋ふくろのそばで、心配しんぱいそうに待まっていました。
シカは、つので袋ふくろをつきさして持もち上あげると、地面じめんに下おろしました。袋ふくろに穴あながあきました。
キツツキも袋ふくろをつついて破やぶりました。
カメは袋ふくろから出でて来くることができました。

シカは、
「カメくん、キツツキくん、ぼくの命いのちはきみたちが救すくってくれた。きみたち友ともだちがいなかったら、ぼくは死しんでいた。きみたちにどれほど感謝かんしゃしていることか。本当ほんとうの友ともともだちがいて、ぼくはうれしいよ。」
と涙なみだぐみました。
キツツキとカメも、
「シカくん、きみが無事ぶじで、ほんとによかったよ。」
と涙なみだぐみました。

でも、ゆっくりしているひまはありません。
シカが言いいました。
「そうだ。あの猟師りょうしがいつここへ戻もどって来くるかわからない。つかまらないように、まずは身みをかくさないといけない。カメくんは水みずにもぐるんだ。キツツキくん、きみも見みつからないようにね。」

猟師りょうしが戻もどってきた時とき、そこには誰だれもいませんでした。
猟師りょうしはこわれた罠わなと破やぶれた袋ふくろを拾ひろって、とぼとぼと家いえに帰かえって行いきました。

シカとカメとキツツキは、あの池いけからもっと安全あんぜんな別べつの池いけにひっこしをしました。
そして、生涯しょうがい、なかよく助たすけ合あって暮くらしました。

（おしまい）

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