寺子屋スジャータ

ナンディヴィサーラのおはなし(ジャータカ 第28話)

再話:藤本 竜子
絵 :ただ りょうこ

2020/10/18開催 第3回オンラインこども仏教教室より

ナンディヴィサーラのおはなし(ジャータカ 第28話)

むかしむかしのおはなしです。

あるところに、ひとりの農夫のうふがいました。
ある農夫のうふあるいていると、たまたま、なにかのおまつりの準備じゅんびをしているところにとおりかかりました。そこでは仔牛こうしがいけにえとしてささげられようとしていました。
農夫のうふはこの仔牛こうしをひとて、そのままほうっておくことができなくなりました。そこで、そこにいた人々ひとびとたのんで、その仔牛こうしをゆずってもらいました。

ナンディヴィサーラのおはなし(ジャータカ 第28話)

農夫のうふは、仔牛こうし自分じぶんいえれてかえりました。そして、「ナンディヴィサーラ」と名前なまえをつけて、ミルクがゆややわらかいフスマなどの、おいしくて栄養えいようのたっぷりはいったごはんをべさせて、そだてました。
ナンディヴィサーラはやさしくてかしこいうしでした。近所きんじょどもたちは毎日まいにちやってて、ナンディヴィサーラとあそびたがりました。ナンディヴィサーラは、どもたちとあそんだり、農夫のうふ仕事しごとのお手伝てつだいをしたりしながら、すくすくとおおきくなりました。

若者わかものになったナンディヴィサーラは、とてもおおきなたくましいうしになりました。からだにはちからがみなぎっていました。
ある、ナンディヴィサーラはこうかんがえました。
「この農夫のうふのおとうさんは、ぼくを苦労くろうしてそだててくれました。おかげでこんなにちからのあるうしになりました。ぼくのこのちからで、このおとうさんがゆたかになったらいいなあ。どうしたら、おとうさんにらくをさせてあげられるだろう。」

ナンディヴィサーラのおはなし(ジャータカ 第28話)

ある計画けいかくおもいついたナンディヴィサーラは、農夫のうふにこんなはなしをしました。
「おとうさん、ぼくはインドじゅうでもおそらく一番いちばん力持ちからもちだとおもいますよ。ここのまちには、たくさんのうしっている大金持おおがねもちがいますよね。そのひとに、『わたしうしひゃくだい荷車にぐるまをつないでもひいてせますよ。』とってみてください。そのひとはなしにのってきたら、『金貨きんかせんまいけたっていい』とってください。」
農夫のうふはナンディヴィサーラのはなしをおもしろがっていていました。かわいいナンディヴィサーラが熱心ねっしんかたるので、だめだとはえません。

そのうち、本当ほんとうに、たくさんのうし大金持おおがねもちとはなしをする機会きかいがやってきました。大金持おおがねもちが自分じぶんうし自慢じまんするのをくと、「うちのナンディヴィサーラのほうがずっとすごいぞ」といたくてたまりません。
とうとういきおいで、「うちのうしは、たったいちとうで、つないだひゃくだい荷車にぐるまをひくことができますよ。なんなら、金貨きんかせんまいけたっていい。」とってしまいました。
大金持おおがねもちはびっくりして、「なんだって? そんなうしがいったいどこにいるんだい?」ときました。
わたしいえにいるのさ。」と農夫のうふはこたえました。
大金持おおがねもちは、「それなら、本当ほんとうにできるかどうかやってみようじゃないか。金貨きんかせんまいけるぞ。」とはなしにのりました。

ナンディヴィサーラのおはなし(ジャータカ 第28話)

さて、けの当日とうじつがやってきました。
ナンディヴィサーラはかわ水浴みずあびをしてくび花輪はなわをかけてもらって、ひゃくだい荷車にぐるまがつながっているれつ先頭せんとう荷車にぐるまにつながって、そこで堂々どうどうっていました。

それにくらべて、農夫のうふはなんだか顔色かおいろがさえません。表情ひょうじょうくらくてかたくなっています。せんまい金貨きんかけたことがこわくなり、後悔こうかいしていたのです。いつもこどもたちとあそんでいるやさしくておだやかなナンディヴィサーラが、ひゃくだい荷車にぐるまをひくなんてかんがえられません。
「ナンディヴィサーラがうから、あんなはなしにのってしまったが、金貨きんかせんまいなんて、わたしはらえる金額きんがくじゃないぞ。けたらいったいどうすればいいんだ。あいつはなんだって、こんなはなしわたしにもちかけたんだ。もうあとにもけないし、どうすりゃいいんだ。」ということが、農夫のうふこころなかでぐるぐるとまわっていました。

さて、いよいよ、ナンディヴィサーラが荷車にぐるまをひくことになりました。なんとしてでもひいてもらわないと、金貨きんかせんまいそんすることになります。農夫のうふむちり、げて、ナンディヴィサーラにこういました。
「この腰抜こしぬけのおおボラき!! さあ、ひくんだ!」

ナンディヴィサーラのおはなし(ジャータカ 第28話)

この言葉ことばいた瞬間しゅんかん、「さあ、ひくぞ」とちからをみなぎらせていたナンディヴィサーラのからだが、ぴたっとまってしまいました。よんほんあしはしらになってしまったように、うごかなくなってしまいました。

腰抜こしぬけのおおボラきだって? ぼくは腰抜こしぬけじゃないし、ホラきなんかじゃないぞ。」
ナンディヴィサーラのこころもからだも、カチンとこおったようにまってしまいました。ひこうとしても1ミリもうごけないのです。

ナンディヴィサーラのおはなし(ジャータカ 第28話)

農夫のうふけが決定けっていしました。
農夫のうふ金貨きんかせんまいうしないました。
からだふたつにがるほどうなだれて、農夫のうふはしおしおといえもどって、そのままふとんをかぶってまるくなってしまいました。
ナンディヴィサーラもあるいていえかえってきました。そして、ふとんをかぶってている農夫のうふました。農夫のうふているベッドにちかづいてって、ナンディヴィサーラがはなしかけました。
「おとうさん、おとうさん、ねむっているの?」
「いや、ねむれはしないよ。おれはもうダメだよ。金貨きんかせんまいうしなって、でっかい借金しゃっきんができちゃった。」

「おとうさん、どうしてぼくのことを『腰抜こしぬけのおおボラき』なんてったの? ぼくがこれまでに腰抜こしぬけだったことがある? いちでもうそったことがある? おとうさんにわれた仕事しごとを、ぼくがやらなかったことがある?」
農夫のうふいました。
「いや、いちだってないな。おまえはいつだってやるべきことをしっかりやってくれたよ。勇気ゆうきもある。うそったことなんかいちもない。」
「うん。あんなことをわれたら、ぼくはうごけなくなっちゃったよ。おとうさんの言葉ことば間違まちがっていたよ。」
農夫のうふはナンディヴィサーラのくびのところにまわして、こういました。
「そうだな。おまえのうとおりだよ。ひどい言葉ことば使つかってしまったわたし間違まちがっていたよ。」
ナンディヴィサーラはこういました。
「おとうさん、あの大金持おおがねもちと、もう一度いちどけをしてください。今度こんど金貨きんかせんまいけるのです。でも、あんな言葉ことばでぼくにびかけないでね。」

農夫のうふかけてって、れいの大金持おおがねもちにもう一度いちどひゃくだい荷車にぐるまをひくけをしないかとはなしをしました。大金持おおがねもちはすぐにのってきました。「今度こんど金貨きんかせんまいけよう」とうと、文句もんくなく「そうしよう」とうことになりました。大金持おおがねもちは、ナンディヴィサーラにはひゃくだい荷車にぐるまなんてひけっこない、とおもっていたのです。

さて、そのました。農夫のうふはいつもするように、ナンディヴィサーラをていねいに手入ていれしてあげて、花輪はなわかざりました。ナンディヴィサーラのからだかがやいて、堂々どうどうとしていました。農夫のうふひゃくだい荷車にぐるまをつないだ先頭せんとうに、ナンディヴィサーラをていねいにしっかりとむすびつけました。おおきなちからがかかってもだいじょうぶなように、ぐらぐらするところがないよう、よくをつけてむすびました。そして、ナンディヴィサーラのからだをやさしくポンポンとたたきました。

ナンディヴィサーラのおはなし(ジャータカ 第28話)

さあ、いよいよそのときました。
農夫のうふおおきなこえでナンディヴィサーラにびかけました。
つよよ、かしこいナンディ! さあ、ひこう!」

ナンディヴィサーラは渾身こんしんちからめました。ひゃくだい荷車にぐるまうしろにずらりとつながっています。びくともしないようにえます。ナンディヴィサーラはあたまげて、あしりました。全身ぜんしん集中しゅうちゅうしてちからをふりしぼります。
そうすると、うごきました。最初さいしょはほんのちょっとうごきました。すこしだけまえすすみ、それからもっとすすみ、とうとうひゃくだい荷車にぐるま車輪しゃりん全部ぜんぶまわはじめました。
一歩いっぽ、また一歩いっぽ、ナンディヴィサーラはまえすすみます。すすんですすんで、先頭せんとう荷車にぐるまがあったところに、一番いちばんうしろの荷車にぐるまるところまで、一気いっきにひきました。

拍手はくしゅ喝采かっさいです。
農夫のうふなみだをためてナンディヴィサーラにかけよりました。ていたひとたちもみな、ナンディヴィサーラのがんばりに、大喜おおよろびでほめたたえました。
てください。はなやおかねあめのように、ナンディヴィサーラと農夫のうふうえにふりそそぎます。
けをした大金持おおがねもちも、ナンディヴィサーラに「あっぱれ」とせんまい金貨きんかわたしました。

ナンディヴィサーラのおはなし(ジャータカ 第28話)

農夫のうふはナンディヴィサーラのおかげで、とても裕福ゆうふくになりました。
農夫のうふとナンディヴィサーラは、それからも仲良なかよたすって、しあわせにらしたということです。

ナンディヴィサーラのおはなし(ジャータカ 第28話)

おしゃかさまからのメッセージ

やさしい言葉ことば・あたたかい言葉ことばだけをはなしましょう。
きつい言葉ことばきずつける言葉ことば・イヤな言葉ことばけっしてはなさないようにしましょう。
やさしい言葉ことばかたひとのために、うしおも荷車にぐるまをひきました。
そのひとに、財産ざいさんをもたらしました。
相手あいて大切たいせつにしてかた言葉ことばによって、しあわせになるのです。

(おしまい)

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