和合ってだいじ(ジャータカ 第33話)
昔々のインドのおはなしです。
あるところに、ウズラの森がありました。なん千羽ものウズラたちがその森でにぎやかに暮らしていました。
その中に王様ウズラもいました。王様はとてもかしこかったので、むれは安全に暮らすことができました。
あるとき、ひとりのウズラとりがその森へ入ってきました。
そのウズラとりはウズラの鳴きまねがとてもじょうずでした。その男が鳴きまねをすると、ウズラたちは呼ばれているような気になって、声のする方に行ってしまいます。
ウズラが集まってくると、その男はウズラたちの上に網を投げます。ウズラたちが網の下であわてている間に、網のはしっこを持ってひきしぼります。そうすると、ウズラたちをいっぺんにたくさんつかまえることができるのです。
男はそうやってウズラをつかまえると、ひとまとめにかごにつめこんで持って帰り、市場やあちこちに持って行って、売りました。男はそうやって、お金をかせいでいました。
男は、その森でうまいぐあいにたくさんのウズラがとれるので、毎日その森にやってきて、たくさんのウズラをつかまえて帰りました。しばらくたつと、たくさんいたウズラたちは、だんだん数が減っていきました。
王様ウズラは仲間がどんどんつかまえられて連れていかれるので、「これはなんとかしなければいけない」と、考えました。そして、ひとつの作戦を思いつきました。
ウズラのむれを集めると、王様ウズラはこう話をしました。
「みんなも知っているように、あのウズラとりの男が毎日この森にやってきて、私たちの仲間をつかまえていく。このままでは私たちの仲間はみな、いなくなってしまうだろう。このむれが滅んでしまう。
私は、あの男につかまらないようにする作戦を考えた。
いいかい。あの男はきみたちの上に網を投げるだろ、そのとき、すぐにそれぞれ自分の場所で、網の目に頭をつっこんで、いっせいに飛ぶんだ。そうやれば網は持ち上がるから、そのまま運んでいくんだ。イバラの茂みのところまで運んだらそこで網を茂みに投げかけるんだよ。網はひっかかるけど、きみたちは大丈夫、下をとおって、それぞれ逃げて行ったらいいんだ。」
話を聞いたむれのみんなは、「なるほど!わかりました。」と言いました。
次の日、あのウズラとりの男が森へやってきました。鳴きまねにだまされてウズラたちが集まったところを、上から網をかけられてしまいました。
でも、そこで、ウズラたちは王様から聞いた作戦を実行しました。みんなでいっせいに、網の目に頭をつっこむと飛び上がりました。そうしたら、網を運ぶことができました。ちょっと重いけれど、みんなで力を合わせて飛べば、ちゃんと運ぶことができました。イバラの茂みのところまで運んで行って、そこでイバラに網を投げかけました。網は茂みの上のところでひっかかっています。ウズラたちは茂みの下から、それぞれ逃げて行きました。
ウズラとりの男は、網ごと飛んで行ってしまったので、どうすることもできません。イバラの茂みに入って網を取るしかありません。しかしその仕事は、一苦労でした。網はイバラにあちこちからみついていて、かんたんには取れません。手をイバラのとげにさされて痛い思いをしながら、網を破かないように慎重にはずしていかねばなりませんでした。それにはとても時間がかかりました。すっかり日が暮れて遅くなって、やっと家に帰ることができました。ウズラはもちろん、一羽もとることができませんでした。
翌日からも、ウズラたちはこの作戦を実行しました。ウズラとりは毎日、イバラの茂みで網をはずすことだけで、とっぷり日が暮れるまでかかりました。そのうえ、獲物は一羽もなく、手ぶらで帰らなければなりませんでした。
ウズラとりの奥さんは、家に帰って来ただんなさんのようすを見て、腹を立てました。
「あんた!いったい毎日、なにをやってるんだい。ここんとこずっと手ぶらで帰ってくるじゃないか。仕事はどうしたんだい。どっかよそで油を売ってるんでしょう?! いったい、どこで遊んでいるんだい?」
と、だんなさんをどなりつけました。
だんなさんは奥さんにこう話しました。
「おいおい、おれはちゃんと仕事をしに森へ行ってるんだよ。遊んでなんかいるものか。それどころか、ひどいめにあって苦労してるんだよ。ウズラどもは、おれが投げた網を運んでいってイバラの茂みに落とすんだよ。そうやって、みんな逃げて行ってしまうんだ。おかげでおれは、手をイバラのとげでさされながら、網をはずすのに夜まで大苦労なんだよ。見てごらんよ。おれの手は、ほら、傷だらけだよ。」
「まあ、なんてこと。それで、一羽もウズラをとれないってかい? それじゃあ、いったいどうするんだい。ウズラがとれなきゃ、私らは食べていけないよ。」
「ああ、大丈夫だ。おまえは心配しなくてもいい。
ウズラどもが結束して力を合わせているから、今は逃げられているがな、今に見ていろ、あいつらが、いつも和合しているとは、おれは思わないぜ。きっとそのうちけんかして、争いになるさ。和合が破れれば、一網打尽にして、かごにいっぱいウズラをとって帰ってくるさ。おまえがにこにこ笑って喜ぶようにしてやるからな。」
奥さんは、「それじゃあ、楽しみにしているわ。」と、ごはんのしたくに行ってしまいました。男は、「なに、早晩、あいつらの和合は破れるさ。争いごとは起きるものさ。そうなりゃおれさまの思うつぼさ。」とひとりごとをいいながら、網の手入れをしました。
さて、それから数日がたちました。
たくさんのウズラたちがえさを食べている時でした。一羽のウズラがえさばに舞い下りていこうとして、うっかりだれかの頭をふんでしまいました。
「おい、だれだ。ぼくの頭をふんだやつは。」と、ふまれたウズラが腹を立てました。
「あ、ごめんごめん。ついうっかり。」とふんだウズラがあやまりました。
でも、ふまれたウズラは気がすみません。腹が立ったままでおさまらないのです。
「うっかりだと? そんなことですむと思ってるのか。」とどなりました。
「うっかりはうっかりだろ。しかたないじゃないか。そんなにどなることじゃないじゃないか。」
「どなって当然だろ。ふむやつが悪いんだ。」
「うっかりと言ってるのに、そんなにどなるなんて、なんてひどいんだ。」
と、どんどんはげしくなっていきました。
まわりにいたウズラたちも集まってきました。
「ふむやつが悪い。」「いや、それぐらいなんだって言うんだ。」「言いすぎだろ。」「ちゃんとあやまれ。」「なんだその言い方は。」などなど、みんなが言い合いを始めました。
言い合いはどんどん広がり、はげしくなり、とうとう、ウズラのむれがふたつに分かれて大きな争いになってしまいました。
王様ウズラがやってきて、「争いはよくない。争いをやめよう。」とみんなに言いましたが、頭に血がのぼっているウズラたちは聞きません。お互いに、「おまえがまちがっている。おれたちは正しい。」と言ってゆずりません。
王様ウズラは考えました。
「これは、非常に危ない状況だ。言い争いをする者には安全はないのだ。和合が破れていては網を持ち上げることはできない。きっと、大きな破滅におちいってしまうだろう。猟師はそんなチャンスを逃しはしないだろう。こんなところにいては危険だ。」
そこで、理解あるものたちを連れて、その森を去って行きました。
数日後 、ウズラとりがやってきました。鳴きまねをしてウズラが集まってくると網を投げました。
一羽のウズラが、
「なんでこいつといっしょに飛ばなくちゃいけないんだ。へっ。おまえは網を持ち上げると頭の毛が抜けるんだってな。持ち上げてみろよ。」
と言いました。
もう一羽は、
「ふん。おまえは網を持ち上げるとき、両方の翼の毛が抜けるんだってな。さあ、持ち上げてみろ。」
と言いました。
言い合いはたちまち広がり、「さあ、持ち上げてみろ。」「なんでおまえに言われて持ち上げてやらなくちゃいけないんだ。」ともめているうちに、ウズラとりが網を持って、ひとまとめにしぼって、たくさんのウズラをつかまえてしまいました。そしてかごいっぱいにつめこむと、ほくほくと帰っていきました。
「よし。これで今日 は奥さんをニコニコさせてやれるぞ。」と。
このときの賢いウズラの王様は、前世のおしゃか様でした。
おはなしのポイント
「和合」とは、みんなで仲良く協力し合って、やるべきことをやることです。
みんなの力を合せることで、大きなことも、なしとげることができます。
ひとりでできることは、それほど大きくはありません。
協力することで、びっくりするほどの力になります。
ひとりひとりではできないと思えることでも、和合すればできるのです。
しかし、自我をはってわがままな行動すると、和合が破れます。
わがままな人がいることで、みんなの力が小さくなってしまったり、力を出せなくなったりします。
和合があると、その仲間はうまくいきます。繁栄します。困難んがあっても、のりこえることができます。
しかし、和合が破れると、破滅がおとずれます。不幸になります。
和合をたもつには、努力が必要です。
和合をたもつポイントは、よく話しあうことです。よく話しあってみんなで決めたことは、わがままを言わずに、全員で実行することです。
(おしまい)
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