寺子屋スジャータ

親孝行の白ゾウのおはなし(ジャータカ 第455話)

再話:藤本 竜子
絵 :藤本 ほなみ

2021/6/13開催 第11回オンラインこども仏教教室より

ジャータカ第455話:親孝行の白ゾウのおはなしとおむかしのインドのおはなしです。
さつであったおしゃさまは、ヒマラヤのやまなからすゾウとしておまれになりました。
からだじゅうがまっしろで、たいそううつくしいゾウでした。ヒマラヤのやまなかはちまんとうのゾウたちがらしていましたが、そのしろゾウははちまんとうのゾウたちのおうさまでした。
おうさまゾウははちまんとうのゾウたちのめんどうをよくみてあげました。ゾウたちがものがなくてこまることがないようにと、いつもをくばっていました。ものがたくさんあるもりつけると、なかまをつれてってべさせました。でも、べつくしてしまうともりがこわれてしまうので、またべつしょへとどうして、ものをさがさなければなりませんでした。

さて、このおうさまゾウのおかあさんはえませんでした。ですから、あちらこちらへくことができません。ものをさがすこともむずかしく、ほとんどじっとしてらしていました。おうさまゾウは、おかあさんがげんでいるかどうか、ちゃんとごはんをべているかどうか、いつもしんぱいしていました。なかまのためにものほうにあるしょをさがしにっても、おかあさんがにいるかどうかになりました。ものつけて、なかまにべさせたときには、おかあさんのところにもとどけるようにと、なかまのゾウたちにたのんで、はこばせました。

しかし、ゾウたちはちゃんととどけてはいませんでした。おうさまかあさんのところまでものはこばずに、ちゅうでおなかがすくと、べてしまっていたのです。
おうさまゾウはよく調しらべてみて、ぶんたのんでおいたものがかあさんのところにとどいていないことがわかりました。そこで、こうかんがえたのです。
「ぼくはむれのなかまのためにやらなければならないことがたくさんある。でも、それをしていると、おかあさんのめんどうをみてあげることができない。かあさんべるものもじゅうぶんになく、たったひとりでいる。このままではいけない。
ぼくはおうであることをやめて、むれからはなれて、かあさんのおだけをすることにしよう。
むれあたらしいおうめんどうをみていくだろう。それでいい。ぼくはかあさんとふたりでどこかでらすことにしよう。」
そうして、よる、みんながねむっているうちに、だれにもげずにひっそりと、かあさんをつれてたびました。
それからずうっとあるいて、チャンドーラナさんのふもとにました。うつくしいはすいけがありました。そばにはここよいおおきなほらあなもあります。おうさまゾウはここでかあさんらすことにめました。
まわりのもりにはいろいろなしゅるいのおいしいくだものがありましたし、きれいなみずゆたかにたたえたいけみずびもできました。とうのゾウがらしていくのに、じゅうぶんでした。

ジャータカ第455話:親孝行の白ゾウのおはなし

おうさまゾウはおうさまではなくなり、いちにちじゅうかあさんのためになんでもすることができました。かあさんがおなかいっぱいになるまで、ものはこんできて、ゆっくりとふたりでいただきました。もりてきたことをはなしたり、うつくしいしきがどんなようすかをはなしたりしました。かあさんいけにつれてって、はなおもいっきりシャワーをして、からだをあらってあげました。
そうしてやすらかなまいにちぎていました。

そんなあるのこと、チャンドーラナさんのふもとのこのもりを、ひとりのおとこがさまよっていました。みやこからやってきたこのおとこりょうでしたが、はじめてやってきたこのほうで、みちまよってしまいました。ぶんがどっちのほうがくからやってて、どちらをいてすすめばよいのか、まったくわからなくなってしまい、みちのないもりなかあるまわっていました。
ながかんあるつづけ、へとへとにつかれはててしまったりょうは、「もう、このもりからられないのではないか」というきょうにとりつかれました。もうあるくこともできなくなって、すわりこんでおおきなこえをあげていていました。

そのごえがあのしろゾウのみみにとどきました。じっといて、しろゾウにはそのおとこがどんなじょうきょうであるのかがすっかりわかりました。
「あのにんげんはたったひとりでもりまよっているのだな。たよれるものはなにもないようだ。このままほおっておけば、このもりいのちをおとすことになるだろう。わたしんでいるこのもりで、あのにんげんぬとすれば、それはわたしにとってはらないことにはできないな。
にんげんかかわることはけんなことだ。やっかいごとではあるが、てていればわたしまえぬようなものだ。しかたがない、たすけてやろう。」
しろゾウはそうかがえました。それで、いているおとこのところへあるいてったのです。

きょだいなゾウがぶんのほうへちかづいてくるのをて、おとこはおびえてました。ふるえあがってげようとするのをて、しろゾウはこえをかけました。
「おーい、にんげんよ。わたしをおそれることはありません。げなくてもだいじょうです。あんたはどうしてきながらさまよっているのですか。」
「ごしゅじんさまわたしみちまよってしまったのです。今日きょうでもうなのになります。」とおとこはなしました。
「そうか。にんげんよ。あんしんしなさい。わたしがあんたをにんげんみちまでつれていってあげよう。」
しろゾウはそうってをかがめると、おとこなかにのせてやって、もりのはずれのにんげんみちがあるところまでつれてってやりました。

しかし、このおとこは、しょうのくさったにんげんでした。きょだいうつくしいまっしろなゾウが、ぶんがいくわえるどころか、たすけてくれるとわかってあんしんすると、すぐに「このゾウでひともうけできるかもしれない。」とかんがはじめたのです。
おとこは、しろゾウのなかってもりをぬけていくあいだに、おおきなやましきなど、じるしになるものをおぼえておいたのです。しろゾウはとてもおおきくてたかいので、ぶんもりなかあるまわっていたときとはおおちがいで、まわりがとてもよくえたのです。
おとこしろゾウとわかれてもりからると、すぐにみやこかいました。「みやこにいるおうさまにあのしろゾウのことをはなせば、きっとほしがるにちがいない。」とかんがえたのです。

ちょうどそのころ、みやこではおうさまのゾウがんでしまったところでした。
しろにはたくさんのゾウがわれていましたが、おうさまるゾウはとくべつなゾウでした。とくべつおおきくて、とくべつりっで、とくべつうつくしく、とくべつかしこくて、とくべつせいかくいゾウが、おうさまるゾウとしてえらばれました。おおきなしきがあるときやおまつりのとき、おうさまかざりつけられたとくべつなゾウにってどうどうとパレードするのです。それから、いくさがあるときも、おうさまはそのゾウにって、せんとうをとるのです。おうさまるゾウは、おうさましょうちょうするとてもたいせつそんざいでした。
そのゾウがんでしまったので、おしろではつぎのゾウをつけなければならなくなっていました。おうさまらいんで、おうものとしてふさわしいゾウをつけてくるようにめいじました。らいたちはくにじゅうに、たいをたたいてふれてまわりました。

しろゾウにたすけられたあのおとこみやこかえってたとき、ちょうどそのおふれのこえいたのです。
おとこくやいなや、おしろはしってって、おうさまへのおどおりをねがました。そして、おうさまにじきじきに、もうげたのです。
おうさまおうさまいま、ゾウをおさがしになっていらっしゃるということですが、わたしはまさにぴったりのゾウをつけました。たいそうりっなゾウでございます。からだはどのゾウよりもおおきく、ちからづよく、なによりぜんしんがまっしろでたいへんうつくしいゾウでございます。しかも、せいかくもよく、おとなしく、かしこいのでございます。おうさまがおりになるのに、まさにふさわしいかとぞんじます。」
おうさまはそれをいて、とてもよろこびました。
「ほほう。そんなすばらしいゾウがおるのか。おまえはそのゾウのいるしょっておるのじゃな?」「はい、ごあんないいたします。ぜひともあのゾウをおとらえになるのがよろしいかと。」
「そうか。それでは、すぐにゾウ使つかいとらいたちをつかわせよう。おまえはそのものたちとともき、そのゾウをとらえるのじゃ。」
「ははあ。かしこまりましてございます。」

おうさまはゾウ使つかいとたくさんのらいをおともにつけて、りょうをチャンドーラナさんもりおくしました。
もりとうちゃくすると、ゾウ使つかいのいっこうしげみにかくれて、ゾウがあらわれるのをちました。いきなりてて、げられてしまってはいけないので、しろゾウがいけものをさがすようすをじっとさぐっていました。
いっぽうしろゾウは、もりがいつもとちがうことをかんじていました。とりたちのこえがしません。しろゾウはじっとまわりをかんさつして、じょうきょうをよみとりました。
「なんだかいやなかんじがするとおもったが、あんげんいんはこれか。あのおとこがすぐちかくにいるのだ。あのおとこもりおおくのにんげんをつれてきたのだな。
では、わたしはどうするべきか。
わたしにはちからがある。せんとうのゾウがかってきても、こっぱみじんにすることだってできる。もしわたしほんおこれば、くにいっぐんたいでさえも、ほろぼすことはできる。いまもりにかくれている、あれぐらいのにんげんなら、わたしはなをひとふりすれば、んでしまうだろう。
だが、わたしがここでおこったなら、わたしぶんせいがんしてまもっている、きよらかなみちやぶってしまうことになる。
わたしせいめいころさない、わたしせいめいくるしめない、そうちかったのだ。それがわたしみちだ。だから、ここでおこってしまってはいけない。
そうだ。わたしおこらないぞ。おこらないとめて、りょくしよう。たとえかたなきざまれても、わたしおこらないのだ。」
しろゾウはけつしました。そして、そのこうべをたれて、じっとっていました。

ジャータカ第455話:親孝行の白ゾウのおはなし

ゾウ使つかいたちは、うつくしくきょだいなゾウをかんさつして、おうさまのゾウとしてあらゆるめんにおいてふさわしいとはんだんしました。ゾウがおとなしいようすなので、いけはいってって、ゾウをとらえました。
「さあ、いいだ。おいで。」と、ぎんいろかがやしろゾウのはなをとらえてひいていきました。そして、なのかかってみなともどってきました。

そのころ、しろゾウのおかあさんははすいけのほとりのほらあななかで、ひとりですわりこんでいました。
てどくらせど、むすかえってきません。おかあさんにはほらあなそとにんげんこえがするのがこえていました。かすかににんげんのにおいもしていました。むすになにがあったのか、おおよそのことはわかりました。
「あのは、りっなからだをしているから、きっとにんげんおうさまのけらいがつれていってしまったにちがいないわ。」そうつぶやいて、なみだながしました。

「あのがいないこのもりは、がおおいつくすでしょう。
はすも、あわひえも、きっとのびほうだいね。
もりをぬけるかぜも、とおらなくなることでしょう。

おうごんうでをはめたどこかのだれかが
ゾウのおうじゃをエサでやしなう。
おうでもおうらないけれど、
ゾウのおうちかられば、
どんなをもやぶり、こわいものなしとなるでしょう。」

そう、ひとりでささやくようにうたいながら、おかあさんはきました。

さて、ゾウ使つかいはみやこかうみちみちで、おうさまでんれいおくっていました。うまくゾウをとらえ、ゾウをつれてみやこかっているということを、ぶんたちよりもひとあしはやく、おうさまらせるためです。
おうさまよろこんで、しろゾウをむかえるためにみやこじゅうをかざらせました。みやこはおまつりのようになりました。ゾウしゃじゅんしました。ゾウしゃゆかかおりをれたしっくいでらせました。うつくしいゾウしゃいろとりどりのまくりめぐらせかざりつけました。
しろゾウがとうちゃくしてそのゾウしゃはいると、おうさまはゾウにいにきました。

しろゾウよ、よくてくれた。さあ、このゾウしゃでゆっくりやすんで、たくさんべなさい。」そうって、ごくじょうあじものつぎつぎはこばせました。

ジャータカ第455話:親孝行の白ゾウのおはなし

ところが、しろゾウは、ひとくちべませんでした。べるちにはならなかったのです。
「おかあさんはたったひとりで、なにべていないでしょう。わたしひとりがどうしてべるわけにいくだろう。」
そうおもうと、むねがつまって、なにべるにならないのです。まえに、やまのようなごそうならべられていましたが、ひとつもくちをつけませんでした。

よくじつも、そのつぎも、しろゾウはなにべませんでした。おうさままいにちやってきて、なんもゾウにべるようすすめました。それでもものはまったくをつけられていないままでした。おうさましんぱいになってきました。
「ゾウよ、ごはんをべよ。やせおとろえてしまってはいけないよ。
おまえにはしてもらわねばならないたくさんのごとがあるのだよ。おねがいだからべておくれ。」
おうさまがそううのをいて、しろゾウはつぶやきました。
「なんとあわれなあのひとは、えず、をひいてくれるものもいない。
ちたかぶにつまずいて、チャンドーラナさんのふもとで、たおしているかもしれない。」

おうさまはおどろいてかえしました。
おおいなるゾウよ。えず、をひいてくれるものもいないそのものは、いったいだれなのじゃ? それはおまえのなににあたるのじゃ?」
しろゾウはおうさまこたえました。
おうさまえず、をひいてくれるものもいない、そのひとは、わたしははです。」

おうさまにはしろゾウがごはんをべないゆうがわかりました。しろゾウのやさしいこころながれこんできて、おうさまむねあつくなりました。すぐさましろゾウのなわき、ゾウしゃもんひらいて、こうったのです。
「このだいなゾウをはなしてやれ。このゾウはははおややしなっているのじゃ。
このおおきなゾウをははのもとへかえらせよ。」
なわかれて、しろゾウはゾウしゃもんました。ながあいだべていないので、すこあしがふらつきましたが、すぐにいきをととのえて、しっかりとち、チャンドーラナさんへとあるはじめました。

なんにちあるつづけて、とうとうチャンドーラナさんのふもとのあのもりかえってきました。はすいけとうちゃくし、つめたいきよらかなみずはないっぱいにげると、ほらあなはしってきました。
はなおおきくふりあげて、おもいっきりみずげました。シャワーがおかあさんのなかりそそぎます。

かあさんはとつぜんあめにおどろいて、
「なんであめるのでしょう。わたしにシャワーをらせてくれる、あのってしまったのに。」とつぶやきました。

「おかあさん。さあ、って。ぼくですよ。かえってきましたよ。あなたのむすかえりました。
おうさまはぼくをはなしてくれたのです。」
かあさんのからなみだがあふれました。
「そうなのかい。かえってたんだね。よくかえってたね。」
かあさんはしばらくのあいだ、なみだこえませんでした。それから、やっといました。
としりをだいにしてくれるこのむすはなしてくださったとは。なんとやさしいこころおうさまでしょう。」

ジャータカ第455話:親孝行の白ゾウのおはなし

そして、おかあさんはおうさまかんしゃし、こころからおうさましゅくふくしました。
だいおうさましあわせでありますように。おうさまくにさかえますように。」と。
それから、ふたりはゆっくりとしょくをしました。

さて、みやこではにんげんおうさましろゾウのことをおもっていました。
「なんとすばらしいゾウであったことか。なんとやさしくだかこころのゾウであったか。」
おうさまは、しろゾウのとくこころたれたのです。
「あのゾウにまたいたいなあ。どうすればよいのだろうか。あのゾウをみやこにつれてくることはできんし。」
かんがえたすえおうさまぶんあしはこんで、しろゾウにいにくことにしました。おうさまみずから、チャンドーラナさんしろゾウをたずねていきました。
おうさまがたびたびやってくるものですから、チャンドーラナさんのふもとの、あのいけからそうとおくないところに、むらができました。おうさまはそのむらにやってては、しろゾウとおかあさんゾウにい、ふたりのめんどうをよくみました。
にんげんおうさまとゾウのおうは、しんゆうとなりました。ふたりはおおくのかんかたってすごしました。
やがてときち、しろゾウのおかあさんがとしいて、寿じゅみょうがつきてくなりました。しろゾウはとむらいをすませると、けんとのつながりをち、きよらかなみちきわめるためにカランダカほうへとたびちました。
そのあと、あのもりにはヒマラヤさんちゅうからひゃくにんせんにんたちがりてきて、そのせんにんたちがむらびとようけるようになりました。にんげんおうさまは、しろゾウのせきぞうつくり、しゅうせいだいそんけいしたということです。

そこからはじまったのが、インドでまいとしおこなわれる、ゾウのおまつりだとわれています。

 

(おしまい)

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