シカとキツツキとカメの友情(ジャータカ 第206話)
昔々、ある森に、シカがくらしていました。
その森にはきれいな池があって、そこにはカメが住んでいました。
池のそばの大きな木には、キツツキが巣をつくっていました。
シカは毎日、池に水を飲みに行き、 そこでカメとキツツキに出会って、友だちになりました。
シカとキツツキとカメは、毎日会って、長い時間いろんな話をしました。とてもなかよく、楽しく暮らしていました。
ある日 、一人の猟師が森の中をあちこち歩き回るうち、あの池を見つけました。
池のほとりを歩いていた猟師は、地面についたシカの足跡を見つけました。
「これはなかなか立派なシカではないか。こいつをしとめてやるとしよう。
きっと、この池に水を飲みに来るに違いない。では、このあたりに罠を仕掛けておこう。」
そう言って、鉄の鎖ぐらい丈夫な革ひもでできた罠を仕掛けて帰って行きました。
夕方遅く、シカが池にやってきました。
「早く友だちに会いたいな。」と思いながら、ぴょんぴょんと跳びはねながら走ってきました。
池がすぐそこに見えてきた時、いきなり足が何かにつかまれました。
シカはびっくりして、思わず悲鳴をあげました。
その声を聞いて、池からはカメが、木の上からはキツツキが、あわてて見に来ました。 見ると、シカの足が罠にかかっています。かたい革ひもの罠がシカの足をがっしりととらえています。
逃げようとしてひっぱると、足がちぎれそうに痛くなりました。
猟師が来たら、きっとシカは殺されてしまうでしょう。
「どうすればいいんだろう?」
シカとカメとキツツキはお互いに目を見合わせました。
キツツキが罠をよく観察して言ました。
「これは、この革ひもを切るしかなさそうだよ。とてもかたそうだけど。
カメくん。きみには歯があるよね。きみなら、この革ひもを噛み切れるかも。
きみが噛み切っているあいだ、ぼくは飛んで行って、猟師を見張っているよ。そして、猟師がここへやって来ないように、がんばってみる。」
カメがすぐに言いました。
「よし、そうしよう。」
カメとキツツキは 「力を合わせて乗り越えよう。」
とシカを励ますと、すぐに仕事を開始しました。
カメはすぐさま革ひもを噛み始めました。
キツツキは猟師が住んでいる村へ飛んで行きました。
よく朝早く、あの猟師が斧を持って、家から出きました。仕掛けた罠を見に行くつもりです。
すぐさまキツツキは恐ろしい声をあげながら、空から猟師をめがけて急降下して、顔に体当たりして飛び去りました。
猟師は、家から出ようとした瞬間にわけもわからないことが起こり、
「なんなんだ?今日は縁起が悪いぞ。」といったん家の中に戻りました。
キツツキは、考えました。
「猟師はさっき家の表から出てきたな。次はきっと裏口から出てくるだろう。」
それで、今度は家の裏にひそんで待ちました。
猟師は、しばらく家の中で休んでいましたが、気をとりなおして、こう考えました。
「さっきは家から出たとたん、不吉な鳥にやられてしまった。今度は裏から出れば大丈夫だろう。」
そこで、裏口からそっと、あたりをうかがいながら出てきました。
一歩外に出たとたん、キツツキは恐ろしい声をあげながら、猟師の頭に後から 体当たりして飛び去りました。
猟師は恐ろしくなって、あわてて家の中に引き返し、
「ああ、今日はツイてないや。」
と、ふとんをかぶって、もう一度眠ってしまいました。
猟師が再び目をさますと、もう日が高くのぼっていました。
猟師は飛び起きて、斧をしっかりとにぎりしめました。
「もう行かねばならん。今度こそ、行ってやるぞ。あの不吉な鳥がおそってきたら、この斧でたたき切ってやる。」
猟師は今度は、斧を振り回しながら、家から出てきました。
キツツキには、もうこれ以上、猟師を足止めさせておくことができないことがわかりました。
そこで大急ぎで、森の中の池に向かって飛んで行き、シカとカメのところへ舞い降りました。
カメはわずかな革ひもを残して、あとは全部噛み切ってしまっていました。
でも、カメの歯はボロボロになっていて、口は血まみれになっていました。
「猟師がやって来るよ!」
とキツツキが叫び、カメは最後のがんばりで革ひもを噛みました。
シカも足に力を入れて引っ張りました。とうとう革ひもが切れました。
その時にはもう、猟師が大またでズンズン近づいてくる姿が見えました。
シカはさっと身をひるがえして森の中へかけて行きました。
キツツキは高い木にとまって身をかくしました。
カメは動く力がなくて、その場にじっとうずくまりました。
罠がこわされて、シカが逃げてしまったとわかると、猟師はかんかんに怒りました。
足踏みをしてくやしがりました。
そこで、その場にいたカメを見つけると、えものを入れる袋にほおりこんで、木にぶらさげてしまいました。
そして、シカをさがしてあたりを歩き始めました。
シカはそっと戻ってきていました。カメとキツツキのことが心配だったからです。
しげみのかげから見て、カメがつかまって袋に入れられたのがシカにわかりました。
「カメくんを助けなきゃ!」
シカは、猟師に見えるところに姿を少しあらわして、足を引きずって歩きました。
猟師はそれを見て、シカがケガをしていると思いこみました。
「しめしめ、こいつは弱っているな。これなら簡単にしとめられるぞ。」
そう思って、斧をにぎって、シカを追いかけました。
シカはつかまりそうなぐらいに引き寄せては離れ、また引き寄せては、また少し離れ、というようにして、森の中深く猟師をさそいこみました。
かなり遠くまできたところで、シカは、さっとひとっとびで姿をくらまし、風のようにまっしぐらに跳んで走って、池のところに戻りました。
キツツキはカメが入れられている袋のそばで、心配そうに待っていました。
シカは、つので袋をつきさして持ち上げると、地面に下ろしました。袋に穴があきました。
キツツキも袋をつついて破りました。
カメは袋から出て来ることができました。
シカは、
「カメくん、キツツキくん、ぼくの命はきみたちが救ってくれた。きみたち友だちがいなかったら、ぼくは死んでいた。きみたちにどれほど感謝していることか。本当の友ともだちがいて、ぼくはうれしいよ。」
と涙ぐみました。
キツツキとカメも、
「シカくん、きみが無事で、ほんとによかったよ。」
と涙ぐみました。
でも、ゆっくりしているひまはありません。
シカが言いました。
「そうだ。あの猟師がいつここへ戻って来るかわからない。つかまらないように、まずは身をかくさないといけない。カメくんは水にもぐるんだ。キツツキくん、きみも見つからないようにね。」
猟師が戻ってきた時、そこには誰もいませんでした。
猟師はこわれた罠と破れた袋を拾って、とぼとぼと家に帰って行きました。
シカとカメとキツツキは、あの池からもっと安全な別の池にひっこしをしました。
そして、生涯、なかよく助け合って暮らしました。
このお話のポイント
よい友だちは、困っている時、大変な時に、お互いに助け合います。
真の友とは
- 助けてくれる友だち
- 喜こびも悲しみも共にしてくれる友だち
- 良いアドバイスをしてくれる友だち
- 思いやりのある友だち
(おしまい)
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