寺子屋スジャータ

生まれかわったお妃さま(ジャータカ 第207話)

再話:藤本 竜子
絵 :ただ りょうこ

2021/9/12開催 第14回オンラインこども仏教教室より

 

むかしむかしのおはなしです。
カーシこくにポータリというまちがありました。そこをおさめているのは、アッサカというまえおうさまでした。

もうしばらくのあいだ、アッサカおうかなしみにしずんでいました。
まいにちあさひるよるも、ひつぎきかかえて、なみだにくれています。
おうさまあいするおきさきさまがくなったのです。

きさきさまはウッバリーというまえの、それはそれはうつくしいかたでした。てんにょかとおもうようなうつくしさでした。おきさきさまをひとはだれもが、「にんげんとはおもえないうつくしさだ」といました。
そのおきさきさまが、あまりにもとつぜんんでしまって、おうさまかなしくてかなしくて、ごはんものどをとおらず、ねむることもできず、いてばかりいたのです。

ジャータカ第207話:生まれかわったお妃さま

おうさまは、おきさきさまのなきがらを入れたひつぎに、ゴマのあぶらかすをつめさせて、たいいたまないようにしました。そして、ぶんのベッドのちかくにひつぎを置いて、ずっと、ながめたりさすったりしながら、なげきかなしんでいました。

うつくしいウッバリーや、なぜんでしまったのだ。」
はなしかけては、なみだながしていました。

ジャータカ第207話:生まれかわったお妃さま

おうさまりょうしんや、しんぞくともだち、らいたち、しゅうきょうなど、いろんなひとがやってきて、おうさまをなぐさめようとしましたが、ぜんぜんダメでした。
おうさま、すべてはじょうでございます。なにもかもわってゆくものです。へんしないものなどございません。なないものはありません。おうさま、そんなになげかれますな。」
と、さとしたりいさめたりしましたが、おうさまこころにはまったくはいらなかったのです。

さて、ヒマラヤにひとりのせんにんがおりました。せんにんきびしいしゅぎょうをして、いろいろなじんずうりきにつけていました。そのせんにんてんげんちからでインドたいりくをみわたしていると、アッサカおうがなげいている姿すがたにとまりました。
「ひどいなげきようじゃな。このおうさまりっにんげんであるなら、たすけてあげなければいけないな。」
そうかんがえて、せんにんじんずうりきくうちゅうにまいあがり、そのままアッサカおうさまきゅう殿でんまでんできて、きゅう殿でんにわかぜのようにりてきました。りたったところは、おおきないしでのうえで、いたのようなかたちになっています。それはおめでたいしき使つかせきばんでした。せんにんは、そのままそのせきばんうえに、おうごんぞうのようにどうどうすわって、しずかにめいそうしていました。

そこへひとわかいバラモンがとおりかかり、せんにんつけました。バラモンは「このひとはただものではないないな」とかんじました。そこで、せんにんにていねいにあいさつをしました。
すると、せんにんがそのバラモンにはなしかけました。
わかかた、こちらのおうさまりっかたですか?」
バラモンはこたえて、
「はい、おうさまりっかたです。ふだんはこうせいくにおさめておられ、たみからもしたわれております。とてもおやさしいかたです。しかし、おきさきさまがくなってからというもの、なげきかなしんでおられ、しょくものどをとおらず、きくらしておられます。あなたはりっせんにんさまであるとおけしますが、おうさまたすけてさしあげることはできないでしょうか」
わかかたおうさまがここへおいでになって、わたしにおたずねになるなら、わたしおうさまにおきさきさまがどのようにまれかわったのかを、おしえてあげられます。また、おうさままえで、おきさきさまにはなしをさせるようにもしてあげられますよ。」
「そうですか! それではすぐに、おうさまをこちらへおつれいたしましょう。」
わかいバラモンはそうって、いそいでおうさまのところへかけてきました。

おうさまはバラモンからはなしくと、おおよろこびでにわにかけつけました。
「ウッバリーにえるといたが、ほんとうですか?」
おうさませんにんにあいさつをすると、すぐさまそうたずねました。
「はい、おきさきさまはこちらでくなって、まれかわっておいでです」
せんにんはなしはじめました。
おうさまは、をのりすようにして、
「あなたはきさきまれかわったところをっているのですか?」
とたずねました。
「はい、ぞんじております。」
「ウッバリーはどこにまれかわっているのでしょうか?」
おうさま、おきさきさまはごしんうつくしさをたいそうまんおもっていらっしゃいましたね。じんであることをはなにかけて、わがままでいらっしゃいました。それでまわりにしんせつにしたりなさいませんでしたね。おこないをされないまま、じんせいわってしまわれました。

ジャータカ第207話:生まれかわったお妃さま
きさきさまは、このちかくにまれかわっておいでです。
このにわむ、
ほら、そこをあるいているフンコロガシにまれかわられました。」
「ええっ?!!! なんということだ! これが、あのかわいいウッバリーなのか?」
おうさませんにんあしもとをひきのフンコロガシがあるいているのがえます。おしろわれているうしたちがとしたフンをまるめてダンゴにして、それをオスのフンコロガシがちからいっぱいはこんでいます。メスのフンコロガシはそのフンのうえって、とてもまんぞくそうにはこばれていました。
「はい、このメスのフンコロガシがおきさきさまのまれかわれたお姿すがたです。たいそううるわしいメスのフンコロガシでございます。」
「な、なんと! わたしにはうつくしいとはとてもおもえないが!」

ジャータカ第207話:生まれかわったお妃さま
にんげんうつくしいかどうかは、にんげんはんだんにすぎません。フンコロガシのかいでは、このフンコロガシはりょくてきなメスにございます。ほら、ごらんください、フンコロガシのオスにはモテモテのようでございますから」

おうさまはおどろきのあまりことてこないようすでしたが、やっとのことで、こうつぶやきました。
「ああ、わたしにはとてもしんじられない。これがウッバリーだというのか。」
そこで、せんにんはこういました。
「では、わたしちからで、かいをできるようにしてみましょう」

ジャータカ第207話:生まれかわったお妃さま

せんにんじんずうりき使つかうと、フンコロガシのことにんげんこととなってくことができるようになりました。
せんにんがメスのフンコロガシに、
「あなたはぜんでなんというまえであったか?」とたずねました。
フンコロガシは、
わたしはウッバリーというまえでした。アッサカおうきさきでした。」
とこたえました。
「では、いま、あなたはアッサカおうのことをどのようにおもっているか? いとしくおもっているか?」

ジャータカ第207話:生まれかわったお妃さま

いとしくおもっておりましたが、あれはぜんでのことでございます。いまわたしにとっていとしいのは、このたくましいオスのフンコロガシでございます。かれちからつよく、わたしひつようりょうしつのフンをこうやってはこんでくれます。これからわたしたちはづくりにはげむので、とてもいそがしいのです。アッサカおうにんげんですもの、わたしにはなんのかんけいもございません。もし、わたしおっと、このフンコロガシのかれに、がいくわえることでもあろうなら、わたしはそのにんげんうらみますが、わたしたちのかいにかかわらないなら、わたしにとっては、なんのきょうもございません。」

 

ジャータカ第207話:生まれかわったお妃さま

 

このかいいて、アッサカおうがさめました。
「ああ、ウッバリーはんだのだ。」
ひとことそううと、おうさまなにかがちたようで、おしろへともどってきました。

おうさまはただちにおきさきさまのなきがらをてさせて、あらためてせんにんにもあいさつをしました。そのときには、すっきりしたかおつきになり、きとしたおうさまになっていました。
せんにんは、それから、おうさまおうとしてひつようなことなどおしえをいてあげて、そののち、ヒマラヤへとったということです。
のちに、アッサカおうは、あらたにきさきむかえ、ただしくくにおさめたということです。

 

おはなしのポイント

  • せいめいぶんおこないによって、んだらつぎせいへとまれかわります。
  • まれかわったら、そのせいめいとして、きていきます。
  • どんなせいめいとしてまれるかは、それまでのおこないのちからによります。
  • せいめいは、ぶんまれたそのせいよろこび、そのせいめいのもののかたで、そのせいをいっしょうけんめいきていきます。
  • じょうであることをみとめずに、ものごとにしがみついていることは、おろかなことです。

(おしまい)

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