お指図屋(ジャータカ 第115話)
鳥さんたちの仕事はなんといってもたべものさがしですね。
鳥は飛ばなくちゃいけないので、おなかにたくさんためておくことはできません。一日中、ちょっとずつ食べています。さえずりながら、ずっと食べものをさがして食べています。
さて、これは、むかしむかしのおはなしです。
ヒマラヤ地方に、ある鳥たちが大きな群れでくらしていました。おしゃかさまは前世でその群れの長でした。
鳥たちは草原や森で食べものをさがします。小さな食べものを見つけてはたべます。目に見えないくらい小さなものでも、ちゃんと見つけて食べます。
でも、やっぱりおいしいのは、くだものやお米や豆です。にんげんの畑にはくだものやお米や豆がたくさんありますが、なかなか食べることはできません。畑にちかづくと追いはらわれてしまいますから。
にんげんは、畑のくだものやお米や豆をぜんぶ持って行ってしまいます。そしてそれから、ふくろや箱に入れて、車にのせてはこんでいきます。その時にちょっと、こぼれたりするのです。大通りには、そうやってこぼれたものがちょくちょく落ちていました。
それは鳥たちにとっては、おいしいごちそうにありつくことができるチャンスだったのです。
その鳥の群れに一羽の口うるさいメスの鳥がおりました。この鳥は、おいしいものを食べることが好きで好きで、おいしいものに対して、とても欲ばりでした。
でも、他の鳥が見つけた食べものを横取りしたりして、自分が欲ばりなやつだと思われたら恥ずかしいので、自分が欲ばりなことはかくしていました。欲ばりであることはかくしていましたが、おいしいものはたくさん食べたいのです。
この鳥は、大通りで、そこに落ちているくだものやお米や豆を食べるのが大好きでし た。だって、野原や森でやっと見つかるたべものよりも、大ごちそうでしたから。
でも、このごちそうをたべたいのはほかのみんなも同じです。ほかの鳥たちも大通りにやってきて、なにか落ちていないかとさがします。うっかりしていると、ほかの鳥に先に見つけられて、食べられてしまいます。
この鳥は、「みんながこの大通りにやってきて食べたら、私の食べるごちそうが減ってしまう。大通りに他の鳥たちが来ないようにしなくちゃ。」と考えました。
そこで、群れのみんなに、こう言ったのです。
「あっちに大通りがあるけど、あそこはとっても危ないですよ。すごーく危険です。ゾウが通るし、ウマも通ります。ウシも通ります。ゾウやウマやウシが荷車をひいて、行ったり来たりしています。おそろしいいきおいですから、あんなところで食べものをさがしたりしたら、あっというまにひかれてしまいますよ。危ないですからね、行ってはいけませんよ。」と。
それからいつでも、だれかが大通りの方へ行こうとすると、この鳥はすぐさま飛んで来て、
「だめだめ。大通りに行ってはいけませんよ。危ないですからね。」と注意しました。
鳥の群れのみんなは、彼女のことを「お指図屋」と呼ぶようになりました。
お指図屋は、みんなには大通りに行かないように指図しましたが、自分は毎日そこに行って、落ちているくだものやお米や豆を食べていました。
ある日のこと、お指図屋がいつものように大通りを歩き回っていると、とてもおいしいそうなくだものが落ちているのが見つかりました。運んでは行けないので、通りのまん中でしたが、そのままあわててほおばって食べていました。
その時、向こうから車がやってくる音がしました。お指図屋は車が来ることに気づいて、ふりかえって見たのですが、「まだまだ遠い。」と思いました。「いそいでたべてしまわないと。」と思って、「もうちょっと、もうちょっと。」と食べつづけました。 車はあっというまに近づいて来ていました。お指図屋が車のかげに、はっと気づいたときには、もうおそかったのです。
彼女は飛び立つひまもなく、車にひかれてしまいました。
鳥の群れの長が群れのみんなを集めたときに、お指図屋がいないことに気づきました。
「お指図屋がいないな。さがそう。」 と、みんなでさがしてみると、大通りでひかれているのが見つかりました。
群れの長はその報告を聞いて、こう言いました。
「お指図屋は他の鳥たちに指図して、大通りに行くのを止めておいて、自分はそこを歩き回って、車にひかれてしまったのだ。食べものに欲ばって、死んでしまった。」
おはなしのポイント
- 人には「こうするべきだ、ああするべきだ」と言うけれど、自分はやらない、ということはよくないことです。
- 言うこととやることがちがっていることもよくないことです。
- お釈迦様の言葉
Yathā vadī, tathā kārī. Yathā kārī, tathā vadī.
長部経典(DN III p. 135.16–18)
自分が言っているとおりにやりなさい。自分がやっているとおりに言いなさい。 - 親切なふりをして言っていても、ほんとうは他の人に損をさせるためのことがあります。
- 人の言葉にはよく注意して、なんでも簡単にのってしまわないようにしましょう。
- 自心に欲があらわれると、正しい判断ができなくなります。それで、失敗したり、まちがったことをしてしまうことになってしまいます。
- 「ひとりじめ」は欲ばりです。
- 「ひとりじめ」しても、得にはなりません。
- 分け合うこと、分かち合うことは、幸せになる道です。
(おしまい)
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